三代目 中川のだんじり 其の2・・・・
ふわぁ~、まぁ~いろ、だん馬鹿れふぅ~!
ここしばらく、やたら眠たい日々を送っている「だん馬鹿」でおます。
その原因は、言わずとしれた『世界陸上ベルリン大会』。昨夜は、男子200メートル予選、女子やり投げ・・・・。連日深夜におよぶテレビ観戦。別に陸上競技をしていた訳でもないのですが、やたら気になる世界記録。ボルトの速さは、なんなんでしょうねぇ~?
さて、本日の『だんじり通信』は前回に引き続き、大阪市生野区 中川の三代目地車についての続編です・・・・。
前回の『だん通』を見る
前回の『だん通』でも、彫物について少々触れてみましたが、今日は今回の大改修のメインとなった、脇障子・隅障子を含めた見送り廻りの全面新調改修から・・・・。
前回の大改修では、見送りの三枚板は新調当時のままにされていました。今回の大改修では、「源平合戦」をテーマに、見送り三枚板・脇障子・隅障子を新調入れ替え。
後正面は4層、左右は3層の構造。また、三枚板の図柄は各々一つの題材で細工されているのではなく、脇障子・隅障子をつなぎ、複数の図柄構成になっています。
後正面は隅障子とつながり、『一の谷合戦』。一層目には「熊谷次郎直実と平敦盛の戦い」の場面。2~4層目には源 義経や弁慶などが急な崖を駆け下りた「ひよどり越え」の名場面。それにつながる左右の隅障子には、「梶原景季、箙の梅」や「岡部六弥太と平忠度、組討ち」が、迫力満点に彫られています。

右面は『屋島合戦』。「義経、弓流し」をメインに、脇障子に彫られた那須与一が奥板に彫られた平家の軍船の扇をめがけて矢を放つ、「那須与一、扇の的を射る」の名場面。その横には軍船に乗り、安徳天皇を抱いている建礼門院時子の姿が見えます。

左面には『木曽山中の合戦』。これは窮地に陥った木曽義仲が、以前に平家から剱を奪い返してあげた不動明王に救われ、平家の軍勢を打ち負かした場面(倶利伽羅峠の戦いかな・・・・?)。脇障子の馬乗りは、山中の平知盛の勇姿であろう。

おそらく、この三枚板の手本となったのは江戸の浮世絵師 歌川秀輝の錦絵『木曽山中合戦』だと思うのだが、その真相はいかに・・・・?
(木下彫刻工芸の健司くんに会う機会があれば聞いてみようっと・・・・最近会ってないなぁ~)。

これほど創意工夫を凝らし手の込んだ上地車の見送りは、今までお目に掛かったことがないぐらいの超豪華版! 《木下彫刻工芸》木下建司 師の苦心の跡が伺い知れる逸品と言えるでしょう。
次に土呂幕ですが、土呂幕は前回の大改修で彫り替えられています。今回の大改修では、その土呂幕の左右の前後(地車の四角)に「四獣神」の半松良が施されました。
「四獣神」とは、東西南北の各々を守護する神獣のことで、北の「玄武」、南の「朱雀」、東の「青龍」、西の「白虎」のことを指します。かの奈良県明日香村のキトラ古墳の壁画にも描かれていたもので、中川の地車を災いから守るように配されたのでしょう。
また、枡合や虹梁は前回の大改修で新調されています。今回は、大屋根下の枡合と虹梁の裏側にも彫物が取り付けられました。枡合の裏側には「波に龍」、虹梁の裏側には「雲に鳳凰」。
そして、間仕切り虹梁には「雲と波」の彫物が彫られました。この部分は二枚重ねの二重構造で細工されていて、その中に「宝」と呼ばれる筒状のものが取り付け飾れるようになっています。

一般的に大阪市内・東大阪などでは、見送りの後正面に晒などを網状に編み、この「宝(お守りと呼ぶところも・・・)」を取り付けるのですが、
そのために三枚板の彫物が見えなくなってしまうのが常。せっかく豪華な三枚板が製作されたとて、それが見えないのも残念。これならば、見えること間違いなし。なかなかのアイディアと思わず感心してしまいました・・・・。
最後にもうひとつ、私の目を釘付けにした彫物があります。それは大屋根後部の破風と小屋根との間を埋めるように施された、「松に烏天狗」の懸魚。小屋根の箱棟の両側、大屋根後部の桁にかけて取り付けられているもの。

近年、私なりに思っていたのが、大阪型地車の大屋根と小屋根の段差。段差が少なく、懸魚も付かないのがあたりまえだったのですが、新調されたり、改修された地車を見るたびにその段差が大きくなってきているような気がしていました。
おそらく、小屋根の箱棟の側面に彫物を入れるために、小屋根の箱棟の高さが高くなっているように思うのですが、そのすき間を埋めるべく創意工夫された「懸魚」と「桁隠し」の両方を兼ね備えた『新型秘密兵器』ってな感じ・・・・。なかなか、カッコええ代物です。
この他にも、縁葛の貫腕を受けるように腰組みを施すなどの工夫も随所に見られ、中川の町民の皆さん、大下工務店、そして木下彫刻工芸が三位一体となり創意工夫して完成したのが、三代目 中川のだんじりと言えるでしょう。

戦火で先々代地車を失い、苦労の末の先代地車の新調。改修を経て、「三代目」となった中川のだんじり。
町民の地車に対する熱き思いを後世に伝えるためにも、末永く大切に曳行されますことを祈念しつつ・・・・。
【三代目 中川地車 主な彫物図柄】
〈大屋根鬼板-前後〉
獅噛み
〈大屋根懸魚-前〉
翠岩十一ヶの橋
〈大屋根桁隠し-右〉
伝兵衛、学問の図
〈大屋根桁隠し-左〉
資米を運ぶ村民
〈大屋根懸魚-後〉
松に烏天狗
〈大屋根車板-正面〉
親子龍
〈大屋根枡合-正面〉
神武東征、八咫烏
〈大屋根枡合-右〉
神功皇后と誉田別命を抱く武内宿禰
〈大屋根枡合-左〉
三韓退治
〈大屋根虹梁-正面〉
桶狭間 今川義元血戦
〈大屋根虹梁-右〉
秀吉、尼崎の難
〈大屋根虹梁-左〉
本能寺の変
〈間仕切り虹梁〉
雲と波
〈小屋根鬼板〉
獅噛み
〈小屋根懸魚・桁隠し〉
天の岩戸
〈小屋根車板〉
親子獅子
〈小屋根枡合-後正面〉
帝の凱旋、兵庫出陣出迎え
〈小屋根枡合-右〉
大塔宮、吉野落ち
〈小屋根枡合-左〉
楠木正行、如意輪堂の場
〈見送り-後正面〉
『一の谷合戦』からの題材
〈見送り-右〉
『屋島の合戦』からの題材
〈見送り-左〉
『木曽山中合戦』
〈勾欄合〉
『秀吉出世録』
〈縁葛〉
『曽我物語』
〈土呂幕-正面〉
頼朝、朽木隠れ
〈土呂幕-右〉
巴御前の勇戦
〈土呂幕-左〉
木曽義仲の勇戦
〈土呂幕-後正面〉
黄瀬川の対面
〈半松良-右前〉
白虎
〈半松良-右後〉
朱雀
〈半松良-左前〉
玄武
〈半松良-左後〉
青龍
〈台木〉
波に鯉
※左右は、地車正面から見たもの
<<前の記事 | 次の記事>> |