茶屋のだんぢり漫遊録

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板勾欄だんじりの魅力!~河内長野市・向野入魂式より~


ちょっと前の話になりますが、去る5月6日のこと…

堺市の鳳地区では、長承寺の新調だんじりの入魂式が行われ、溢れ返らんばかりの見物人で賑わっておりましたが…




その日、時を同じくして河内長野市でも、1台のだんじりの入魂式が行われておりました。


その町は、千代田地区の向野



昨年11月に抜魂式を行い、岸和田の植山工務店にて修復されていました。



ちょうどワタクシ、この春に所用で植山工務店にお邪魔した折、もう組み上がって作業場の中に置かれてある向野のだんじりを拝見しまして…



ご覧の通り、このだんじりは『板勾欄出人形式住吉型』と呼ばれるだんじりで・・・



正面柱巻から勾欄にかけての図柄は、『神功皇后三韓征伐』の図。


勾欄廻りに配置された出人形の彫物をまじまじと見つめること数分・・・



そう言えば・・・



『河内長野って、板勾欄のだんじり多いよなぁ…』

と、一人感慨にふけってしまったのですが・・・



確かに河内長野市は、
『板勾欄出人形式住吉型』のだんじりの宝庫なのです。


同じ千代田地区には市町西、木戸本郷、千代田石坂

お隣の長野地区には上原、野作、古野

三日市地区には三日市南部

これらみな『板勾欄出人形式住吉型』に分類されます。

長野地区の石坂も、『堺型』という分類ですが、『板勾欄式』です。



そうそう!…三日市地区の片添の先代だんじりで、現・和歌山県橋本市は柏原のだんじりも、『板勾欄出人形式住吉型』でしたね!




これらすべて、幕末~明治の初期に製作されたもので、大工は特定されてないながらも、おそらく住吉の《大佐》もしくは《大源》一門の手によるものでしょう。

そしてその彫物は、堺の《彫又》一門によるものであります。



住吉大社の近隣に居を構えていたこれらの大工が、当時互いに凌ぎを削りながら製作し、住吉から堺の旧市内で曳かれていたもので、明治29年の『堺だんじり騒動』以降、堺、住吉から流出したのでありましょう。


向野のだんじりも、製作年代は定かではないのですが、『明治十一年七月』の墨書きが残されています。



また彫師は《彫又》の中でも西岡又兵衛と言われており、現・大阪市住吉区の、若松神社氏地で曳かれていたものであります。

墨書きから、『山之内』とおぼしき文字も読み取れ、もしかしたら若松神社氏地の山之内で曳かれていたもの?・・・なのかも知れません。





この『板勾欄式』の一大特徴と言えばモチロン、舞台を囲む勾欄廻りが、大ぶりな出人形を配した彫物で埋められている部分です。


特に正面は勾欄から柱巻にかけて一つの場面として構成されており、彫物の立体感がひときわ目を引く姿見が、豪華さを印象づけてくれます。


そう…、『板勾欄式』のだんじりは、その“パッと見”ですでに豪華な印象を与えるという、上だんじりの中でもきわめて稀な存在と言えるかも知れません。



ワタクシも子供の頃に、“パッと見”でその彫物の密度に目を引かれただんじりと言えば、河内長野の上原のだんじりであったり、現在は宝塚市の小林で曳かれている、当時は東大阪市の足代のだんじりでした。


他にも、現在の河内長野以外に分布する『板勾欄式』だんじりと言えば、和歌山県橋本市の市脇に保存されている市脇の先代だんじりや、堺市は津久野地区・神野町の先代だんじりで、現・大阪市西淀川区の姫嶋のだんじりなど・・・



いずれも『板勾欄式』の代表と言われた名だんじり達ですね!





さてさて、向野に話を戻しましょう。



5月6日、入魂式当日・・・


この日の朝早くに植山工務店から、氏神・千代田神社へと搬入されただんじり。

神社にて入魂式を済ませ、町内へと曳いて帰ります。


こちらの垂れ幕は地車小屋の裏面。


三枚板左・『鬼若丸の鯉退治』の図柄です。



町内に戻ってから、お昼を少し回るぐらいまで、 お披露目は続きました。


向野の皆さん、だんじり修復入魂式、おめでとうございます。




ちなみに、今月18日(日)は…

河内長野市制60周年記念の、だんじりパレードが行われます。

当日は正午頃に、市内24台のだんじりが市役所に集結。

13:30に市役所を出発し、ラブリーホール→七ッ辻交差点を経由し、河内長野駅前までをパレード。



今回述べた『板勾欄式』だんじりも揃って見れる他、住吉《大佐》製作の純正『住吉型』、さらに『堺型』など、見応えあるだんじりが勢ぞろいします。


10年前に『市制50周年』のパレードが行われた時はあいにくの大雨でしたが、今週末はお天気にも恵まれそう。

18日(日)は是非、河内長野にお出かけしてみて下さい。



では、今回はこの辺で…!

 
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