茶屋のだんぢり漫遊録

目次

梅雨の晴れ間に兎が跳ねる

大阪市北部を震源とするマグニチュード6.1の地震からまる3日。
いまだライフラインの復旧が進まず不自由な生活を強いられている皆様にはあらためてお見舞いを申し上げます。

まだ大きな揺れへの警戒は解けない状況ではありますが、ブログの方は通常運転に戻ります。



6月17日(日)
は早朝から岸和田市は旧市地区で、筋海町のだんじりの入魂式が行われました。




昨年、旧市地区におけるだんじりの入魂式は4月に上町と中北町の2度行なわれましたが、今年はこの6月17日(日)が最初。
そのためか、この日を待ちわびたかのように多くの見物客が詰めかけ、沿道を埋め尽くしました。



さぁお写真を見ながらその日の様子を振り返って参りましょうかね。


午前6時


梅雨入り以降、コンスタントに雨が降っていた今年の6月ですが、この日は早朝から抜けるような青空。

なんせ『夏至』の手前って事で、1年の中でも最も夜明けの早い時期ですから、だんじりが動き出す時間にはすっかり朝の光が燦々と降り注いでおります。



しかも湿気が少なく、少し冷んやりとした空気に、正にこの上ない『だんじりの曳行日和』となった中を、まずは小屋を出発した筋海町のだんじりは、宮入り前の禊である『潮かけ』のため、一路、海手方向へ向かって進みます。

カンカン場のちょい北側、府道臨海線の近くまで進んで折り返しただんじりは、いよいよ氏神である岸和田天神宮へと宮入り。



南海本線のガード下を、祭礼時と同じように遣り廻しを行い、入魂式のため神社の境内へ。




さて、ご存じ筋海町のだんじりは昭和8年に新調されたもので、大工は《久吾》久納久吉、久納幸三郎兄弟



通称『二重破風』とも呼ばれる大屋根正面の『軒唐破風』は、岸和田の旧市地区では唯一の形。



彫師は名匠・西本舟山の息子である西本五葉が責任者となって作事した唯一のだんじりで、助にはのちに一元正を名乗る野村正、淡路の名匠・開正藤の息子である開生珉、そして泉州では数多くのたんじり彫刻にその名を残す玉井行陽といった顔触れ。

ベテランと若手がガッチリ組み合い、若手の二人は五葉師より叱咤激励されながら製作したと言われる名作であります。


今回は入魂式なので、だんじりの彫物をじっくりご覧頂くお写真はございません。
入魂式後のお披露目曳行のお写真をご紹介しながら、お話を進めてまいりましょう。




筋海町は大正2年に、筋違町、餌差町、瓦屋敷の三町が合併して生まれた町で、それ以前はそれぞれの町がだんじりを所有し、それぞれの町にだんじりを作事できる大工が居住していたそう。


現在、熊取町の煉瓦館にて保存・展示されてある熊取町は小垣内の先代だんじりは、ここ筋海町の三先代にあたり、明治13年に筋違町の《大若》により製作されたもので、三町合併後もこのだんじりが筋海町のだんじりとして曳行されたが、大正9年に熊取町小垣内へ売却。

大正10年に新調しただんじりは一度も曳かれる事なく熊取町は五門へと売却。

翌年・大正11年に《久吾》久納久吉・幸三郎兄弟により新調されただんじりは昭和初期まで曳行されたが、不慮の事故により熊取町は七山へと売却されました。


三町合併後、どこかの字(あざ)が主導して新調しただんじりは他の二字が貶すという歴史を繰り返してきた筋海町でしたが、
『これが最後のだんじりや!』
とばかりに初めて三字が心を一つにして取り組んだのが現在のだんじりでありまして、昭和8年の新調入魂式の時には、神前で正式に『三字合併祭』を執り行ったという事です。



それ以降、筋海町ではこの現だんじりを町の宝として愛し、大切に曳行して来ました。


昭和53年、平成9年、平成12年と大規模な修復を重ねて来ましたが、基本的な姿形は変えずに保たれています。



今回の修復は筋海町のだんじり小屋の真向かいに作業場のある《地車製作 隆匠》にて行われ、大工棟梁はモチロン、筋海町の大工方、曳行責任者、年番を歴任し、現在は筋海町の町会長を務める田中隆治 棟梁。



台を新調交換し安定を増し、大屋根葺地と鬼板、懸魚を新調。
なお修復彫師は《木彫 濱中》濱中浩二 師。

また田中棟梁が大工として独立するキッカケとなったのが、この筋海町のだんじりの、平成12年の大修理であったと言われています。




さぁ、お写真の方では入魂式後のお披露目曳行の様子を順を追って見て頂きました。

町内から駅前を左に折れて海手方向へと向かい、カンカン場から再び駅前を左に折れ、町内の村道を曳行された筋海町のだんじり。

この町内を貫く旧道こそ、現在の昭和大通が開通する前の、らんかん橋から岸和田駅までの本通りでした。

筋海町の繁栄を支えた道なのであります。



この日の曳行の模様は近々、当サイトの動画館ならびに写真館にて公開致します。
お楽しみにお待ち下さい。


筋海町の皆さん、この度はだんじり修復おめでとうございます。





また岸和田の旧市地区では、7月8日(日)に宮本町が入魂式を控えています。

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