茶屋のだんぢり漫遊録

目次

戦友(とも)よ永遠なれ




今回は5月のネタなんですが、今年は度々一週間ほどの休筆をさせて頂いたりしていて、ネタの消化が遅れております。


また来月に入りますと夏祭シーズン本番を迎えますので、またまた更新のペースが落ちるやも知れませんが、まぁ出来るだけ頑張って更新して行きますので、今年の夏も当サイトと当ブログにお付き合い下さい。



5月の後半に行われた数々の『だんじり行事』にはまだ触れてませんでしたね。

その中から今回はこちら!



5月20日(日),神戸市東灘区住之江區のだんじりの昇魂式が行われました。


当日はお別れ曳行等はなく、神社境内にて昇魂式のみという予定で、熱心なだんじりファンもほとんど駆けつける事なく、小屋から出されただんじりは祭礼から2週間を経過してすっかり静けさを取り戻した本住吉神社の境内に、ひっそりと据え置かれていました。



当サイトの各町だんじり紹介ページには、幕末から明治頃の製作と記載されていますが、昭和6年に灘区の高羽が新調したというのが、一般的に言われているプロフィールです。


↑高羽にて新調されただんじり

現在とは姿見の印象が違い、神戸型だんじり特有の『とんび屋根』が目を引く姿見です。


大工は大石巳代吉、彫師は川原啓秀による作品で、昭和20年の神戸大空襲により、だんじりの上半身を消失するという被害に遭い、その状態のだんじりを住之江が昭和22年に購入

3年の歳月をかけて、製作時と同じく大工:大石巳代吉、彫師:川原啓秀により大改修が行われ、昭和25年に完成したのが、現在の姿。




昭和20年の神戸大空襲で特に大きなものは2月4日、3月17日、6月5日の3回行われていますが、三宮から東側から阪神間に甚大な被害を出したのは6月5日の方です。


戦後、焼けただれたまま2年ほどそのままにされていたのは、戦後の何もない時代から徐々に復旧、復興をして行く中で、高羽ではだんじり祭を再開する事が不可能になったと考えるのが自然ですかね?

とは言え、このまま処分してしまうのも惜しく、半焼のだんじりを引き取る地域もなかなか現れなかったという背景が見え隠れします。



ともあれ、住之江に渡ったこのだんじり、大改修と言うより、復興・再生事業のようなものだったのではないでしょうか?


昭和25年に晴れて生まれ変わった住之江のだんじり。
その完成を祝う集合写真には、彫師・川原啓秀の姿もあります。



↑前列右から4人目が川原啓秀


ご存知、富山県は井波彫刻の第一人者・川原啓秀は、大正末期には神戸に居を構えて彫刻仕事をしており、その期間に数多くのだんじりを神戸の地に残しています。

一度は製作されながら空襲の憂き目に遭い、再度製作し直した住之江區のだんじりは、大石、川原両師にとって忘れられない作品なのではないでしょうか?



かくして、晴れて住之江のだんじりとして生まれ変わっただんじりは、以後、住之江の地域に愛され、平成30年の祭礼まで足掛け70年近くにわたり活躍する事になります。



すでに先程から何枚かお写真をご紹介していますが、この度、住之江區の地域の皆様から昔の貴重なお写真をご提供頂きましたので、一部ですが、引き続きご紹介しながらお話を進めてまいりましょう。


ワタクシ信濃屋が初めて神戸のだんじり祭を目にしたのは昭和61年でした。



いったい何年生の年かなぁ?


以来、必ず毎年ではないにしても、ほぼ毎年にわたり神戸のだんじり祭に出かけるようになり、いつしか、神戸のだんじり祭、特に住之江區の宮入りを見なければゴールデンウィークは終わらないと豪語するぐらい、毎年恒例の行事となりました。



神戸市全体で30数台を数えるだんじりの中でも、住之江區の祭礼、曳行の姿は抜群の存在感と雰囲気を誇り、その言葉に尽くせない威圧感は、周りで見ている見物人すらも魅了して止まないものでした。



それはひとえに、住之江の人々の、祭とだんじりとを愛する気持ちの強さ・・・と言い換える事も出来るのではないでしょうか?

まさに、住之江の人達にとって、このだんじりは『戦友(とも)』と呼べる存在なのでしょう。





さて、時は流れて平成30年

来年の新調だんじり完成を控え、このだんじりにとって最後の例大祭がやって来ました。



5月5日の夜は、4日間にわたって繰り広げられる神戸だんじり祭のラストを飾る、本住吉神社の宮入りです。

境内に7台の小屋を持ち、反高林を合わせて8台のだんじりが夜7時より行う宮入り



その中でも、屋根に乗る人数がひときわ多く、練り廻す時間もひときわ長い住之江區の宮入りは、時には上手く回らない年もあったのですが、最後の宮入りとなる今年は、参加者の並々ならぬ熱意と気合いで、ほぼノンストップで30分回し切りました。



役目を終えるだんじりに、この上ない鼻向けとなった宮入りでした。


さぁ、そんな祭の熱気も一段落した5月20日(日)・・・

祭礼装束で集まった住之江區の人達が見守る中、昇魂式を迎えただんじりは、住之江に来てから70年にわたり担った役割を、静かに終えました。



神事の後は、拝殿前までだんじりを移動させて、記念撮影。



抜けるような晴天のもと、住之江の人達は晴れやかな表情の中に、一抹の寂しさを漂わせながら、だんじりを写真に収めていました。



さて、現役を退いたこのだんじりは他所へ売却される事なく、地域の宝物として保存されます。

住之江の域内に保存場所が確定するまでは、神社境内の小屋にて保存されるとの事。



そして!・・・


来年お目見え予定の新調だんじりは、現在、泉佐野市の《板谷工務店》、彫物は《賢申堂》にて製作中


4月頃のお披露目予定との事なので、その日を楽しみに待ちたいと思います。



住之江區先代だんじり、長い間、お疲れさまでした。


信濃屋お半悠遊!だんじり録
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