茶屋のだんぢり漫遊録

目次

泉佐野市文化会館のだんじりをご存知ですか?





前回までの『平成〜令和』シリーズは一旦置いときまして、それ以外の話題にも触れて行きましょかね。


当サイトユーザーの皆さんは、こちらのだんじりをご存知ですか?



こちらの場所は、泉佐野市文化会館『エブノ泉の森ホール』のエントランスでございます。



ご覧のように、1台のだんじりが展示されております。


このだんじりは、同市・樫井西のだんじりで、当地では平成11年頃から曳行を休止しており、今回、実はワタクシの同い年の知り合いで泉佐野市に何かと繋がりのある人物が橋渡しとなって、ここに展示する運びとなったそうであります。



樫井西としてはこのだんじりをどこかへ手放すという予定はなく、かと言って曳行を再開する気運もないという事で、じっと蔵に眠らせたままというのも心苦しいので、人目につく場所に展示されるならそれも良いという事でこの話を受け入れたとか。



展示されるにあたり同じく泉佐野市に居を構える《大真工務店》にて小規模な修復を施し、この場所での展示となりました。



ではこのだんじりの歴史を少し振り返ってみましょうかね。

地元・樫井西が配布している資料ならびにいくつかの記述によりますと、昭和25年に岸和田市は春木地区の八幡町が新調しただんじりで、大工は《武田工務店》という大工。



おそらく、だんじり専門の工匠ではないかと。



しかしながら、彫師としては《木下舜次郎》が責任者となって刻んでおり、その正面土呂幕に彫り込まれている『五条大橋』などは、舜次郎師の作品と言われておるのですが、ワタクシがこのだんじりを拝見させてもらった時は、ご覧のようなライトの当て方で、正面土呂幕が影になっていて、ハッキリと拝めない状態でした。



後からその知人のいる場所へ立ち寄って、このだんじりを拝見してきた話をした時に、
『ちゃんと正面土呂幕にライトが当たるようしといてくれ』
と申し出ておいたのですが、その後どうなったのでしょうね~?



新調当時のこのだんじりは現在の姿見よりさらに小ぶりであった様で、八幡町がこのだんじりを新調した当時、まだ春木地区は『春木南』と『春木北』の2台時代、『春木南』は現在の泉町、南浜町、北浜町、本町の4町で構成されており、対する『春木北』は元町、中町、大小路町、宮川町、宮本町、大国町、戎町、松風町、若松町、八幡町10町で構成されていた時代。



春木北では昭和20年代にだんじりの新調計画があったものの、これが諸事情で頓挫し、その中でいち早くだんじりを新調し、春木北から独立したのが八幡町で、このだんじりは、そんな春木地区の歴史の中で生まれただんじりなのですな。



昭和25年頃といえば、木下舜次郎 師にとっても脂の乗った時期で、おそらく岸和田市は中之濱町のだんじり新調に向けて邁進していた頃かと。



そんな時期に、まぁいわゆる『合間仕事』と呼ばれるものかと思いますが、舜次郎の名を現在に残す1台でもあるのです。


八幡町では昭和52年に、このだんじりを熊取の個人が所有していただんじりと交換して先代だんじりを入手し、このだんじりはその後、熊取の個人より昭和63年に樫井西が購入。

その際、岸和田の《吉為工務店》により修復されており、現在の姿見はその時のもの。



ワタクシがこのだんじりを拝見しに泉佐野市立文化会館を訪れたのは4月の初め頃なのですが、最初パッと見て、
『あれ・・・朝市型の屋根やん…』
て思ったんですね。



すなわち屋根の形状が、かつて岸和田の南町に居を構え、大正期に熊取の朝代や岸和田の南町、さらに大工町や堺町などのだんじりを世に送り出した《朝代市松》の屋根の形状に、よく似てるんですよね〜。



枡組の形状を見ても、枡合を心持ち広めに取ってあったりして、厳密ではないにしても、その雰囲気は『朝市型』っぽいもの



そう、《吉為工務店》は、名門と云われた《絹屋》の流れを汲む大工の系譜でさらに朝代市松から直系の流れを汲んでおり、この形状の屋根を作事できるのも納得できるのであります。

とは言うものの、平成の時代にこの形状の屋根(中央の棟が広くて左右の軒が狭く、むくりの形状が丸い)は世間的に好まれないのか、平成期に《吉為工務店》が世に送り出した新調だんじりにもこの形状の屋根は皆無で、さらにかつて《朝市市松》が世に送り出した各だんじりも、現在は修復によって違う形状の屋根が乗っており、もう『朝市型』の屋根というのは、言わば『絶滅危惧種』なのであります。



なので、今は『朝市型の屋根』とか言っても、だんじり愛好家の皆さんでも
『へ?・・・』
て思われる方も多く、広く知られていないのも事実・・・。


それだけに、ここで『朝市型』の屋根に巡り会えたのは奇跡とも思えるぐらいで、ワタクシはこのだんじりを見ていた数十分のうち、大半は屋根ば~っかり眺めていましたね。




なお、このだんじりの展示期間は今年度末までということで、来年の3月末日までの予定ですが、もし樫井西での曳行復活が決定すれば、地元へと戻るそうです。


ただし、現在のところ樫井西では、今年の曳行復活はないとの事。



一年中ずっと見れますので、もし良ければ、ワタクシの好きな形状の屋根を見に、そしてライトはちゃんと土呂幕に当てられているかを確かめに、見学に訪れてみてはいかがですか?


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